エノログと話そう
「ワインの科学」

 
戸塚 昭

農学博士、技術士(農学部門・農芸化学)、
Œnologue (ワイン醸造技術管理士)

Vol.1 序《エノログ》とは何者ぞ?

 「ワインって難しいね」という言葉を耳にすることが少なくありません。本当にそんなに難しい飲み物なのでしょうか。
 
Aさん「産地だとか、ブドウの品種だとか、ワインを造った年だとか・・・。覚えることがありすぎますよね」
エノログ「レストランのワイン・サーヴィス係りのソムリエになりたいのですか?」
Aさん「家でワインを愉しむだけなのですが・・・」
エノログ「それなら、産地や品種などの難しい話よりも、《傷んだワイン》をお客に薦めない酒販店、スーパー、デパートなどから、ワインを購入する必要がありますね」
Aさん「傷んだワインって、カビ臭やお酢やマニキュアの除光液の臭いがするようなワインのことですか」
エノログ「微生物によるダメージを受けて、カビ臭やお酢やマニキュアの除光液の臭いがするようなワインはもちろんですが、光線、温度、酸素によってもワインは傷みます。また、健康食品で人間にとって有益だと宣伝されている“酵素”という語句を眼にしたこともあるかと思いますが、その酵素の仲間によってもワインが傷むことがありますよ」
Aさん「産地や品種の話よりも、もっと難しいですね」
エノログ「ですから、傷んでいないワインを常時陳列してお客様の期待に応えてくれる店舗から、ワインをお買いになることが大切なのです」
Aさん「ワインを買いに行くと、きれいな茜色をしている、白い花の香りがする、下草の匂いがする、果実味が豊かだ、酸味が爽やかだ、渋味が柔らかいといった《褒め言葉》は聞きますが、試飲させてもらってもよくわかりません」
エノログ「ワインスクールやワインの本等で勉強した表現ですね」
Aさん「日本に、ワイン醸造学がわかって、ワインのコメントが出来る人がいますか」
エノログ「日本にも、大学等の高等教育でワイン醸造学を学んだ後、実務経験を経て、醸造学的見地からワインの個性や欠陥を指摘出来る人たちがいます。彼らの肩書は“エノログŒnologue”といい、“ワイン醸造技術管理士”と和訳しています」
Aさん「エノログの方は、実際にはどのような仕事をしているのですか」
エノログ「詳しいことは (一社)葡萄酒技術研究会のHP(budou.jpn.org/budou/)をご覧下さい。簡単にいえば、ブドウ栽培、ワイン醸造、さらにワインの流通に携わる技術面の専門家で、ビール会社に例えると技師長に相当する職責です。エノログが技術面の話を正確に伝えようと解説を行うと、どうしても専門的な技術用語や化合物の名称を使用することになり、難しい話になってしまいます。
 
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Vol.2 《美味しいワイン》ってどんなワイン?

「美味しいワインはどのワインですか?」と店員に尋ねたり、逆に他人から尋ねられたりしたことはありませんか。レストランでしたら、「ソムリエお勧めのワイン」に落ち着くのでしょうね。ところで、「美味しいワイン」とはどのようなワインをいうのでしょうか。
 
 デパートのワイン売り場でワインエキスパートの徽章を付けた女性店員が販促にあたっています。ワインを買いに来た「アラサーの女性Aさん」との会話です。
 
Aさん「いろいろな銘柄のワインがあって、目移りしてしまいますね」
店員「いらっしゃいませ。今回はフランスの金賞入賞ワインをお勧めしています」
Aさん「お値段が手ごろな美味しい赤ワインはどれですか」
店員「このシャトーABCは如何ですか。メルロで造った果実味豊かなワインです。い つもは3200円ですが、今はセールス中なので2800円です。ご試飲なさいますか」
Aさん「お願いします」
 
 店員は《お勧めの赤ワイン》をプラスチック製の小さなカップに数ml注ぎ、Aさんに渡す。Aさん、ちょっと香りを嗅いでから一口飲んで、
 
Aさん「口当たりが柔らかくておいしいワインだわ。では、これを一本下さい」
店員「有難うございます。レジの方へどうぞ」
 
 Aさんが「美味しいワイン」と思っているワインの品質と、店員が勧めたワインの品質が一致したということでしょうか。メデタシ、メデタシ。
 
 ところで、《エノログの眼》から見ると、シャトーABCのワインは、残念なことに、《高温劣化》したワインでした。ワインエキスパートの徽章を付けた女性店員は《高温劣化ワイン》とわかっていながら売ったのでしょうか。また、Aさんは何故、《高温劣化ワイン》を美味しいと感じたのでしょうか。
 
 さて、「美味しいワイン」って、基準は何ですか。以前、流通業の方で「ドライコンテナーで輸入しても、《飲み手》が美味しいっていえば文句はないだろう」という人がいました。《怖い話》ですね。改めて「美味しいワインの基準」について考えてみませんか。
 
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